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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)369号 判決 1999年3月25日

アメリカ合衆国

ジョージア州30313 アトランタ市 コカーコーラ・プラザ1

原告

ザ・コカーコーラ・カンパニー

代表者

ロバート・ディー・ガイ

訴訟代理人弁護士

鈴木修

矢部耕三

深井俊至

同弁理士

中田和博

東京都港区浜松町2丁目1番16号

被告

博兼商事株式会社

代表者代表取締役

古市守

訴訟代理人弁護士

杉浦幸彦

同弁理士

後藤政喜

永井冬紀

松田嘉夫

主文

特許庁が平成8年審判第14800号事件について平成10年7月6日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1  原告の求めた裁判

主文第1項同旨の判決

第2  事案の概要

1  特許庁における手続の経緯

被告は、登録第1643930号商標(昭和56年2月19日商標登録出願、同58年12月26日設定登録。本件商標)の商標権者である。本件商標は、別紙審決写しの別紙に表示したとおりの片仮名「オールウエイ」を書して成り、旧第29類「コーヒー、その他本類に属する商品」を指定商品とするが、平成6年5月30日、商標権存続期間の更新登録がされている。

原告は、平成8年8月30日、被告を被請求人として、「本件商標の指定商品中『清涼飲料、果実飲料』についてその登録を取り消す。」との審決を求める審判請求をし、平成8年審判第14800号事件として審理されたが、平成10年7月6日、出訴期間90日が付加された上「本件審判の請求を却下する。」との審決があり、その謄本は同月27日原告に送達された。

2  審決の理由の要点

審決は、別紙審決写しのとおりの理由により、原告(請求人)は、本件審判請求について利害関係を有しないとして、本件審判請求は不適法な請求であると判断した。

第3  当事者双方の主張

原告は、利害関係に関する審決の判断は誤りであると主張し、被告はこれを争った。

第4  当裁判所の判断

1  甲第1号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件商標の指定商品と共通する部分がある現第32類「清涼飲料、果実飲料、飲料用野菜ジュース、乳清飲料」を指定商品とし、「ALWAYS」の欧文字から成る商標(以下「原告商標」という。)につき商標登録出願(商願平5-8871号)をしたこと、この出願については、本件商標とは別の登録商標が引用されて拒絶理由通知が発せられたが、平成10年4月10日に指定商品を「清涼飲料、果実飲料、飲料用野菜ジュース」として設定登録がされたことが認められる。そして、原告商標は、「おーるうえいず」の称呼を生じ、この称呼は、被告の本件商標「オールウエイ」から生ずる「おーるうえい」の称呼と、「おーるうえい」において共通するものであり、本件商標と類似するものであることを直ちに否定することはできず、そのように認定される蓋然性が認められる。

この事実関係によれば、本件商標権が存続する場合には原告商標の登録が無効とされる可能性のあることが認められ、原告は、「本件商標の指定商品中『清涼飲料、果実飲料』についてその登録を取り消す。」との本件審判請求を求める利害関係を有するものと解される(なお、商標登録の取消審判請求を求める利害関係が認められるためには、実際に登録商標が引用されて請求人の商標につき無効審判請求がなされていることまで必要とされるものではない。上記のとおり、本件商標と指定商品において共通する部分のある原告商標は、被告商標と類似するものであると認定される可能性が認められるので、その登録が無効とされるおそれがあるものとして、原告が被告の本件商標登録の取消しを求める利害関係を有していることを否定することはできない。)。

2  のみならず、甲第1ないし第3号証及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成9年4月22日、原告商標の使用許諾を得ている日本コカ・コーラ株式会社を債務者として、本件商標権の侵害を原因として原告商標及び「オールウエイズ」から成る標章を付した清涼飲料の販売等の差止めを求める仮処分命令を東京地方裁判所に申し立てたが、この申立ては同年5月に取り下げられたこと、被告は、同月、原告商標の再実施許諾を受けている長野コカ・コーラボトリング株式会社に対し、本件商標権の侵害を請求原因として原告商標及び「オールウエイズ」から成る標章を付したコーラの販売等の差止めなどを求める訴えを提起し(東京地裁平成9年(ワ)第10409号)、平成10年7月22日に請求棄却の判決が言い渡されたが、被告はこれに対して控訴を提起し、この訴訟は現在東京高等裁判所において審理中であることが認められる。

これらの事実関係によれば、原告商標の実施許諾ないし再実施許諾を受けている上記訴外会社は、被告からその実施が本件商標権の侵害であるとして差止めを求める仮処分命令の申立てや訴えの提起を受け、現に訴訟も係属中であるから、原告が、本件商標の登録取消しの審判請求をする利害関係を現実にも有していることは明らかである(被告は、原告が審判で主張していた請求の利益に係る事実関係は、拒絶査定又は無効審判請求を受ける可能性に関するもののみであったから、上記の侵害訴訟に係る事実関係を本訴において主張することはできないなどと述べるが、審判請求の利益の有無は職権調査事項に属するので、被告の主張は採用することができない。)。

第5  結論

したがって、原告が本件審判請求の利害関係を有しないとした審決の判断は誤りであるから、本件審判請求を却下した審決を取り消すこととする。

(平成11年2月18日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)

平成8年審判第14800号

審決

アメリカ合衆国ジョージア州アトランタ市ノースウエスト、コカーコーラ・プラザ1

請求人 ザ・コカーコーラ・カンパニー

東京都千代田区大手町2丁目2番1号 新大手町ビル206区 ユアサハラ法律特許事務所

代理人弁理士 長谷川穆

東京都千代田区大手町2丁目2番1号 新大手町ビル206区 ユアサハラ法律特許事務所

代理人弁理士 中田和博

東京都港区海岸3丁目105番1

被請求人 博兼商事 株式会社

東京都千代田区霞が関3丁目3番1号 尚友会館 後藤・永井特許事務所

代理人弁理士 後藤政喜

東京都千代田区霞が関3丁目3番1号 尚友会館 後藤・永井特許事務所

代理人弁理士 松田嘉夫

上記当事者間の登録第1643930号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求を却下する。

審判費用は、請求人の負担とする。

理由

第1 本件商標

本件登録第1643930号商標(以下「本件商標」という。)は、別紙に表示したとおりの構成よりなり、第29類「コーヒー、その他本類に属する商品」を指定商品として、昭和56年2月19日登録出願、同58年12月26日に設定登録され、その後、平成6年5月30日に商標権存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。

第2 請求人の主張

請求人は、「本件商標の指定商品中『清涼飲料、果実飲料』についてその登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を概略次のように述べ、本件商標登録原簿及び商標公報(各写し)を提出している。

1.本件商標は、継続して3年以上日本国内において、商標権者(又は通常使用権者)により指定商品中の「清涼飲料、果実飲料」について一度も使用された事実が存在しないから、商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきである。

2.請求人は、本件審判の請求に先立って民間調査会社に依頼して当該商標権者の業務内容、取扱商品の範囲、そして、特に片仮名「オールウエイ」を書してなる本件商標の使用の実態について、取引先に対する照会等を含め鋭意詳細に調査を実行したところ、商標権者は、事実上営業を停止又は廃止しており、平成5年に更新登録出願をなすにあたって本件商標が使用されたとする「ココナッツミルク」を含め、本件審判の請求に係る指定商品に関して、本件商標が使用されたことを直接的又は間接的に示す資料は、何ら発見することが出来なかった。

したがって、本件商標は、前記商品について過去3年間にわたって日本国内では使用されなかったものと判断される。

3.被請求人の答弁に対する弁駁として

(1) 請求人は、「ALWAYS」の欧文字からなる商標を、指定商品「第32類 清涼飲料、果実飲料、飲料用野菜ジュース、乳清飲料」について登録出願中(商願平5-8871号)であるが、本件商標に類似であるとして拒絶査定又は無効審判の請求を受ける可能性を有し、そのような事態を回避するためには、本件商標の取り消しを求める必要があるから、本件審判の請求は適法なものである。

(2) 被請求人は、請求人の上記登録出願に対して、本件商標が、審査官によって引用されていないことをもって、請求人適格が未だ明らかでないと主張しているが、先の弁駁書において述べたとおり、本件商標に類似するとして拒絶査定(その前提として拒絶理由通知がなされることは当然である。)若しくは、無効審判の請求を受け、また、登録異議申立を受けるおそれがあるから、それを避けるために予め本件商標の取り消しを求める必要がある。

現実に拒絶理由通知や拒絶査定を受けるおそれがあれば足り、商標法は、それらが出されるまで先願先登録商標に対する審判の請求を控えるよう要求していないことは明らかである。

(3) 被請求人は、請求人の承諾に基づいて上記登録出願に係る商標を使用している者に対して、自ら平成9年5月に当該商標の使用の差し止めを求めて東京地方裁判所に出訴(平成9年(ワ)第10409号)し、現在審理中であることから、本件審判の請求について請求人適格を争うのは、審判手続における信義誠実の原則に違背するものであり、単に、上記訴訟の係属中に本件商標を取り消す旨の審決がなされるのを妨げるため、審理の引き延ばしを図っているに過ぎない。

第3 被請求人の答弁

被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と答弁し、その理由及び弁駁に対する答弁を概略次のように述べ、証拠方法として乙第1号証を提出している。

1.請求人は、自身が請求人適格を有することを明らかにしていない。

請求人が請求人適格を明らかにし得ない場合、本件審判の請求は、請求の理由無きものとされるべきであるから、請求人の請求人適格が未だ不明のままである現時点において、被請求人は、本件審判の請求は成り立たないものと思料せざるを得ず、また、請求人が求めるところの請求の趣旨は到底これを認めることはできない。

そもそも商標法は、取消審判の請求人適格について何も規定していないが、例えば同法の登録異議の申立てに関する規定においては、「何人も…することができる。」の如く何人も取消審判を請求できる旨明定している訳でもなく、「利益無ければ訴権無し」の原則は、本件審判の請求にも当然適用されるべきである。

しかるに、請求人は、審判請求書において、本件審判の請求の取消対象とされている本件商標の指定商品中「清涼飲料、果実飲料」の部分の消長が、請求人にとって如何なる利害関係を有するかについて、何ら明らかにしていない。

2.被請求人は、平成5年12月8日付けで本件商標権に係る「商標権存続期間更新登録願」を「登録商標の使用説明書」添付の上特許庁に提出し、「商標権存続期間更新の登録をすべきものと認める。」旨の登録査定(起案日 同6年1月27日)を受けている。

3.請求人の弁駁に対する答弁として

(1) 請求人は、先の弁駁書において、自身が出願人であるところの商願平5-8871号に係る商標が、本件商標と類似するので、同登録出願が拒絶査定となるか又は登録後の無効審判により無効とされる可能性があること、をもって利害関係を有する旨主張している。

被請求人は、上記登録出願の書類を特許庁より取り寄せ、該登録出願の出願人と請求人が同一人であることを確認し、また、平成6年10月14日付け(同6年11月4日付け発送)で、登録第1902235号商標、登録第1995981号商標及び登録第2535600号商標(以下「引用商標」という。)を引用とする「拒絶理由通知書」が送付されていること、これに対し出願人(請求人)が同7年3月6日付け及び同7年10月2日付けの2回にわたって上申書を提出し、「引用商標の当該商標権者に対して指定商品の一部放棄を依頼すべく使用状況を調査中」であることを理由として該登録出願の審査の猶予を願い出ていることを、併せ確認した(なお、同7年10月2日付け上申書提出以降の審査状況について被請求人は不知である。)。

ところで、乙第1号証として提出する上記「拒絶理由通知書」に明らかなとおり、該登録出願に同一又は類似する先行登録商標として引用されている商標は、前記したとおりであり、本件商標は含まれておらず、目下その消長が該登録出願の消長に直接的に影響を及ぼしているのは上記引用商標である。

換言すれば、本件商標の指定商品中、本件審判の請求において取消請求のあった指定商品についての存否は、該登録出願の出願人である請求人が現下に直面している問題、すなわち請求人にとっての不利益を即生じかねない法的状況、とは無関係である。

ちなみに、東京高等裁判所昭和59年(行ケ)第103号、昭和60年7月30日判決は、引例商標権の存否が、同商標権の存在により拒絶査定となった商標登録出願の存否に対し影響力があることをもって、引例商標椎の取消審判の請求人(商標登録出願人)が利害関係を有することを認めている。

以上のことから、請求人の先の弁駁書における利害関係についての主張、説明は、なお不適切ないし不十分である。

(2) 請求人は、先の弁駁書において「被請求人は、何ら本件商標の使用の事実を明らかにしていない…」と述べているが、これは、本件審判の請求の状況を正確に伝えていない。なぜなら「本件審判の請求は、被請求人が本件商標の使用の事実を証明する、若しくは本件商標の使用をしていないことについて正当な理由があることを明らかにする責任を負うべき段階に未だ至っていない」からである。

証明という作業が証明する側にとって何らかの負担である以上、証明を要求する側の請求人適格に疑義を存したまま証明する側に挙証の負担を負わせることは明らかに公平を欠くものであり、また、本件審判の請求において斯様な不公平を認容せしむるに足る事情、根拠は何ら見あたらない。

しかるに、請求人の利害関係の存否が未だ不明であることは、上記3.(1)のとおりである。

なお、被請求人は、請求人が利害関係を有することを明らかにすれば、然るべき対処をするに吝かでない。

第4 当審の判断

よって本件審判の請求に関し、当事者間において審判請求の利害関係について争いがあるのでこの点についてみるに、商標法第50条に基づく審判の請求は、当該商標登録を取り消すことにより法律上の利益を有する者でなければ当該審判の請求はできないと解されるところである。

ところで、請求人が、本件審判の請求をなすについて利害関係を有する根拠として挙げる商標登録出願(商願平5-8871号)について、職権をもって調査したところ、該登録出願は、本件商標とは何ら関係のない他人の登録商標を引用して拒絶理由が発せられていることを確認し得た。そして、該商標登録出願は、第32類「清涼飲料、果実飲料、飲料用野菜ジュース」を指定商品とし、商標登録第4134232号として、平成10年4月10日付けで設定登録がなされているものである。

してみれば、請求人は、本件審判の請求について、利害関係を有しない者といわなければならない。

したがって、本件審判の請求は、利害関係を有しない者によってなされた不適法な請求といえるものであるから、商標法第56条において準用する特許法第135条の規定により、これを却下すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。

平成10年7月6日

審判長 特許庁審判官

特許庁審判官

特許庁審判官

別紙

本件商標

<省略>

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